ナビゲーションにスキップ メインコンテンツにスキップ

プログラマティック広告におけるスケールの重要性とは

10月にTrade Deskが公開した動画広告では、ハロウィーンで見られる光景「Trick or Treat」をディスプレイメディアバイイングになぞらえたアナロジーが使われています。この広告では、Facebookなどの広告大手を、子供たちがお菓子をもらえる家が限られている、壁で囲まれた狭い空間のように描いています。逆に、Trade Deskのようなプログラマティック広告プラットフォームは、お菓子がもらえる家がたくさん集まっている宇宙のような空間として描かれています。

面白い例えですが、真実味もあります。Facebookのようなウォールドガーデンプラットフォームはスケールを提供しますが、そのスケールは、いくつかのプロパティを持つ単一のパブリッシャーであるため、範囲が限定的であるという主張もできます(Trade Deskもそう主張しています)。逆に、プログラマティック広告の最大のメリットは、何百万ものパブリッシャーにアクセスできることと、広告を掲載する場所について実際に買い付けの意思決定ができる自律性にあります。

しかし、その主張だけでは問題があります。というのも、この動画でTrade Deskは、すべてのプログラマティックDSPがスケーラブルであるという世界を描いているからです。しかし、現実には、スケールはあまりにも長い間バズワードであり、そのニュアンスを理解することが重要です。

スケールを正しく理解する

プログラマティック広告におけるスケールのシンプルな定義は、DSPが多くのターゲットとなるユーザーにリーチできる能力を意味します。ありがたいことに、業界ではQPS(queries per second)と呼ばれるスケールの測定方法が標準化されています。基本的にQPSは、ある入札者が1秒間に何回広告を配信する機会があるかということを示すものです。具体的いうのであれば、DSPが持つインフラや、提携するサプライパートナーの多様性を測る指標となります。

実際に具体的な例を使って、スケールの大きさを実感しましょう。ある広告主がリターゲティングキャンペーンを実施するために2つのDSPから選択するにあたり、DSP AのQPSが200万、DSP BのQPSが330万だとします。この例では、どちらのDSPも、QPSの面では業界平均を上回っており、選択肢はある程度決まっていると言えるでしょう。10万人のユーザーをターゲットにしている場合、DSP Bはユーザーにリーチできる確率が50%以上高くなるはずです。

もちろん、この例は広告主がどのようにDSPパートナーを選ぶかを単純化しすぎています。カスタマーサービス、経験や実績、クリエイティブセットなどは考慮されていませんが、こうした非QPS属性に基づくバイイングには課題があります。DSPの違いを散布図にすると、入札者間での「クリエイティブサービス」や「経験」の違いはそんなに差がないことに気づくでしょう。そのため、上記の場合、広告主はDSP A、あるいは75万QPSのDSP Cを選択することが多いようです。これは、あらゆるプラットフォームのウェブサイトに「最高の機械学習と、最高の広告主と、最高のチームによる、最大のスケールを実現」と書かれている場合に生じる、残念な結果の現れです。この文脈ではスケールのニュアンスが失われますが、おそらく(数値として)QPSが十分でないからでしょう。

スケールをどう検証するか?

もし、QPSだけではスケールを検証する方法として不十分であるならば、スケールに応じた入札を可能にするDSPの他の面、具体的にいうとサプライヤーの多様性とインフラを探る必要があります。

この動画でTrade Deskが主張したのは、「ウォールドガーデンではパブリッシャーの多様性に欠けるが、プログラマティックDSPでは多様なパブリッシャーを提供する」というものでした。それは正論ですが、サプライパートナーの多様性は二元論ではないのです。サプライヤーと提携しているかどうかということではなく、サプライパートナーの多様性はDSPによって大きく異なり、提携しているサプライパートナーが多いDSPほどより充実したサービスを提供することができるのです。

例えば、先ほどのリターゲティングのシナリオをもう一度見直してみましょう。DSP AはQPSが200万で、10社のSSPにアクセスできます。DSP BはQPSが330万で、DSP Aが提携している10社を含む20社のSSPにアクセスできます。QPSはともかくとして、ターゲットが10万人のユーザーであれば、やはりサプライパートナーの多いDSP Bが選ばれるのは当然です。

DSP Bを選ぶことで、広告主にユーザーをより多く発見する機会を増やすだけでなく、最適化できるデータ量も大幅に増やすことになります。より多くのサプライパートナーを持つDSPは、サプライパートナー、パブリッシャー、クリエイティブイテレーション、クリエイティブタイプ、OSバージョン、入札率、フリークエンシーなどの属性に対してより良い最適化ができ、また、オーディエンスにアプローチできるさまざまなフォーマットやパブリッシャーを提供することで、広告主にとっての収益の減少を抑えることができます。

もう一つの重要な最適化プロセスは、トラフィックの価格設定に関連するものです。スケールアップすればするほど、DSPはより多くのオークション結果をモニタリングし、さまざまなトラフィックコンポーネントの市場価格をより効率的に学習することができるようになるため、表向きには、同じ量のトラフィックを低価格で購入でき、広告主にとってより良いパフォーマンス結果をもたらすことができます。2021年、ほとんどのプログラマティックサプライヤーがファーストプライスオークションに移行したため、この機能はより重要なものとなっています。セカンドプライスオークションでは、入札価格が高すぎると2番目に高い入札価格を支払うことになりますが、ファーストプライスオークションでは、同じインプレッションに対して過剰な価格を支払うことになり、広告主の資金を無駄にすることになります。

したがって、「適切なユーザーを、適切な場所で、適切な広告で、適切な価格で見つける」ことが目的であるとするならば、サプライパートナーのバリエーションは重要であるはずです。また、サプライパートナーの多様性を高めることは簡単なことですが、大規模に実現するには、強固なインフラが必要であり、そのためには資金が必要です。

現在、かなりの割合のDSPが、Amazon Web Server を活用してインフラと入札を強化しています。しかし、課題は、AWSのようなクラウドインフラでキャパシティを拡張するコストが非常に高いことです。DSPがサプライヤーの多様性を高めたい、あるいは特定のSSPからの入札リクエスト量を増やしたい場合、AWSに多額の費用を支払う必要があります。このような必要な投資を行うためには、DSPはより多くの広告主を獲得するか、既存の広告主とのマージンを高めてコストを補う必要があります。

他方、DSPによっては、自社でインフラ構築に投資し、ニーズに合わせて最適化したカスタムハードウェアやネットワークを管理することもあります。その結果、AWSを利用した場合と比較してコストが大幅に削減され、そのコスト削減分をトラフィックコストの削減、ひいてはコンバージョン単価の削減という形でクライアントに還元することができるのです。これらのDSPは、新しいサプライパートナーを簡単に切り替え、特定のSSPの入札レートを上げ、広告主に対して、低コストでスケールアップしたサービスを提供することができます。

最終的に、強固なインフラは、より高い落札率と多様なサプライアクセスをもたらし、それが高いQPSとして現れることになる。とはいえ、QPSが購買決定要因として重要視されていない現在、広告主はこれらの属性をより詳細に調査する必要があります。

今後、特にスケールが重要視されるのは?

現在書かれているどんなコンテンツにも、「将来的にこれが重要になるのか?」という注意点が内在しています。デバイスIDをターゲットにできなくなる未来を想像してください。ルックアライクモデル、デバイスグラフ、除外ターゲティング、リターゲティングが大多数のアプリユーザーにとって不可能な未来(もちろん、未来がどうなるかはわからないが、ほとんどのユーザーが広告トラッキングにオプトインしないと仮定しておきましょう)です。そんな未来では、スケールは広告主が利用できる最も重要な属性になるでしょう。

今日のプログラマティック広告の世界では、私たちが自由に使えるデータセットに基づいて、特定のIDFAに積極的に入札しています。特定のユーザーに特定の広告をリーチすることを可能にする高度にダイナミックなビッダーを持ち、CV率の予測と最適化により、適切なCPM入札を適用して広告配信の機会を獲得することが可能です。しかし、IDFAがないと、ユーザーレベルでスマートな入札を行う機能がなくなり、より確実性の低いものになってしまうでしょう。

広告主が広告を出すことによって期待される結果の確実性が低い場合、広告主はその広告に対して高い価格を支払うことはできません。しかし、同じ広告主がビジネスを成長・継続させるためには、見込み客や既存ユーザーにリーチする必要があり、現在と同じような成果を、より低いコストで実現する必要があります。つまり、最終的にたどり着くのは、広範囲に渡り、ハイスケールで低コストな入札が、広告主に最高レベルのアップサイドをもたらすという状況なのです。

別のシナリオを想像してみる

この記事はアナロジーで始まりましたが、IDFAへのアクセスが少ない世界でのスケールを説明するために、最後に別のシナリオを見てみましょう:あなたが今日、手頃な価格の家を買いたいと思ったとします。Zillow、Redfin、Realtorなど、できるだけ多くのプラットフォームで購入プロセスを開始し、これらのプラットフォームで提供される情報を通じて、特定の条件に一致する物件のオープンハウスに実際に出向くことになるのでしょう。そうやって長く家を探し求めていると、やがて運良く手頃な物件に出会えるようになります。

もし、これらのプラットフォームがなかったら、どうやって家を買うのでしょうか?

オープンハウスを見つけるまで、「売り出し中」の看板に目を光らせながら、希望する場所の周辺をドライブする必要がありそうです。しかし、低予算のため、自分のニーズに合った、しかも競争率の低いオープンハウスを見つけるまで、大量に探す必要があります。

手間はかかりますが、近所を歩いているような無頓着な住宅購入者よりも、よっぽど簡単に理想の家を見つけることができるでしょう。

このシナリオでは、確かにどちらも住宅購入者ですが、適切な住宅を適切な価格で購入する能力は同じではありません。