ChromeからAndroidへ:2024年 プライバシーサンドボックスの最新ロードマップ
1月 25, 2024

ChromeにおけるサードパーティCookieの廃止が、いよいよ2024年から本格化します。一部ユーザーでは、第1四半期中にも段階的な廃止が開始される予定です。これにより、代替ソリューションへの関心がこれまで以上に高まっており、その中心にあるのがGoogleのプライバシーサンドボックス(Privacy Sandbox)です。今回、onlinemarketing.deは、Google、Remerge、AppsFlyerへのインタビューを通じて、この取り組みに関する最新動向と業界における可能性について掘り下げました(原文はニクラス・レヴァンツィック [Niklas Lewanczik] 氏によるドイツ語記事)。
プライバシーサンドボックスの進展と、マーケティングにおける次の一手
2024年、オンラインマーケティングは大きな転換期を迎えます。Googleは長年準備を進めてきたChromeにおけるサードパーティCookieの廃止を、2024年初頭から1%のChromeユーザーを対象に段階的に開始し、新しい代替技術のスケールテストに着手します。Googleのプライバシーサンドボックス担当VP (VP of the Provacy Sandbox)であるアンソニー・チャベス氏(Anthony Chavez)は次のように語ります:
「サードパーティCookieへのアクセスをデフォルトで制限することで、ウェブサイト間トラッキングを防止するトラッキング保護機能のテストを 2024年1月4日から、全世界のChromeユーザーの1%に展開します。このテストは、2024年後半に全てのユーザーのサードパーティCookieを段階的に廃止するというプライバシーサンドボックスの重要なマイルストーンです。全ユーザーへの適用には、英国競争・市場庁(CMA)が定める競争上の懸念事項に対応することが前提です。」(引用:Chrome ブラウザでのサードパーティCookieの段階的廃止に向けた次のステップ)

プライバシーサンドボックスは、Googleが提供する広告ソリューションのツールボックスです。GoogleのEMEA地域におけるプライバシーサンドボックス・パートナーシップ部門ディレクター (Director of Pricacy Sandbox Partnerships) であるハンネ・トゥオミスト=インチ氏(Hanne Tuomisto-Inch)によれば、この取り組みはプライバシー重視の広告を実現するための基盤を業界に提供するものです。これらのツールは、業界関係者が現代的かつデータ保護に配慮した広告ソリューションを開発・活用することを可能にします。今回の取材では、AppsFlyerのプロダクト担当VP (Vice President of Product) であるロイ・ヤナイ氏(Roy Yanai)、RemergeのCEO兼創業者であるパン・カツキス氏(Pan Katsukis)、およびGoogleのストラテジックパートナー開発マネージャー (Strategic Partner Development Manager)であるリディア・シュネック氏(Lidia Schneck)とともに、プライバシーサンドボックスの最新動向に加え、現時点での業界におけるタッチポイントと将来的な可能性について議論しました。
プライバシーサンドボックスとサードパーティCookieの廃止 ─ その先にあるものは?
Googleのハンネ・トゥオミスト=インチ氏によれば、プライバシーサンドボックスとは「プライバシーを最優先に設計されたテクノロジー」を指します。
この姿勢は、Chromeのリリース15周年にあわせて提供された最新アップデートにも明確に現れており、かつてないレベルでセキュリティとパーソナライゼーションの両立を可能にしています。Googleは、さまざまなデータ保護機能とユーザー中心の取り組みによって、クッキーレス時代のマーケティングに向けたマイルストーンを2023年中に複数達成しています。たとえば2023年3月、GoogleはFastlyとの連携によるOblivious HTTPリレー(Oblivious HTTP Relay、 OHTTP)の運用を発表しました。これにより、「Protected Audience(旧称FLEDGE)」という新しいターゲティング手法が実装されました。
Fastlyの説明によると、OHTTPリレーは、個人データを速やかかつ信頼性高く分離・隔離することで、識別されないリクエストのみをビジネスサーバーへ転送します。これにより、個人情報を保護しながら集計データを収集することが可能になります。なお、MozillaもFirefoxにおいて同様のOHTTPソリューションを採用しています。
Protected Audience APIは、Googleが業界向けに提供しているプライバシーサンドボックスのソリューションのひとつであり、クッキーレスな広告の実現に向けた中核的な機能です。このほかにも、Topics API(FLoCの後継)、Attribution Reporting API、Private State Token API、Related Website Sets APIなどが、プライバシーサンドボックスの構成要素として用意されています。では、これらのソリューションが、マーケターにとってどのように機能し、2024年以降のプライバシー準拠型広告施策の成功に貢献するのでしょうか?
鍵となるのは「テスト」
他のマーケティングチャネルと同様に、クッキーレス時代で長期的な成功を収めるには、徹底したテストが鍵となります。Googleは最近、Attribution Reporting API(ARA)の活用ガイドを作成し、Google広告チームがどのようにARAを使って広告指標を計測しているかを紹介しました。Googleのデータサイエンスおよび広告計測部門シニアディレクター (Senior Director of Data Science and Ads Measurement)であるハリケッシュ・ネア氏(Harikesh Nair)は次のように説明しています:
「アドテク事業者にとって、自社のユースケースに合わせてARAを効果的に設定することは極めて重要なことです。Google広告チームは、特定のARA設定を行うことで、精度が著しく向上することを確認しています。私たちは、他のアドテク事業者がARAと統合して必要なコンバージョンデータを取得し、ARAの出力を処理して、ポストサードパーティCookieの世界で正確な計測を維持できるようにすることを推奨しています。ARAは様々なユースケースをサポートする柔軟性を持っています。」
Googleは2023年9月、プライバシーサンドボックスのRelevance APIおよびMeasurement APIをChrome全ユーザーに提供開始しており、今後は「企業単位の個別テストから、複数企業による業界横断的な協調テストまで、目的に応じた多様な検証アプローチが展開される」と想定しています。該当ブログ記事内で、Googleのアンソニー・チャベス氏はこう述べています:
「ChromeのサードパーティCookie廃止に向けて次のステップに進み、すべての人のオンラインプライバシーを強化するために、業界全体の関係者と引き続き協力していきたいと考えています。」
Topics APIに関しても、Googleはすでに初期のテスト結果を数ヶ月前に公開しています。このテストでは、データ保護に配慮した新しいソリューションが、サードパーティCookieと同等のパフォーマンスを発揮する可能性があることが示されました。たとえば、CTR(広告のクリック率)は、Cookie使用時の90%に相当する水準を記録しています。Googleのグローバル広告担当バイスプレジデント (Vice President of Global Ads)であるダン・テイラー氏(Dan Taylor)は、サードパーティCookieなしでも広告パフォーマンスを最適化できる方法について、次のように語っています:
「私たちのテストは、AIがサポートするソリューションを使用してキャンペーンを最適化できることを示しています。例えば、「最適化されたターゲティング」や「コンバージョンの最大化」といった入札戦略を使用したキャンペーンは、さらに優れた結果を記録し、AIを活用した最適化ソリューションが重要な役割を果たすことが証明されました。」
テイラー氏によれば、計測ソリューションに関するテスト結果には一定のばらつきがあるものの、中長期的には、クッキーレス環境下でマーケティング施策を成立させるために必要な要素が明確になってくると期待されています。
Androidにおけるプライバシーサンドボックスの展開
待望されていたAndroid向けプライバシーサンドボックスのベータ版が2023年2月にローンチされたことで、モバイル領域におけるテスト環境が一部のアドテク企業に開放されました。このモバイル向けプライバシー技術のテストに参加している企業には、DSPのRemergeおよびMMPのAppsFlyerが含まれています。

Android向けプライバシーサンドボックスは、Android 13搭載端末を対象に、アドテクプラットフォームによるテストが可能となっており、対応デバイス数も着実に拡大しています。Remergeのパン・カツキス氏、AppsFlyerのロイ・ヤナイ氏、およびGoogleのハンネ・トゥオミスト=インチ氏は、広告主やモバイルマーケターは最新の情報を得るために、現在のテスト結果や開発状況についてプロバイダーに確認するべきだという意見で3者一致しています。この分野における透明性の高い対話はこれまで以上に重要であるとされており、ヤナイ氏も最近のインタビューで次のように語っています:「プロバイダーに相談してください ─ 今こそ変化に対応すべきタイミングです。」
広告配信に関連するサービスでサードパーティのプロバイダーと連携しているアプリ開発者は、そのプロバイダー経由でプライバシーサンドボックスのテストに参加することが可能です。Googleは開発者向けに、ベータフェーズへの参加方法を解説したガイドも公開しており、なぜ・どのようにAndroid Extensions SDKとプライバシーサンドボックスAPIを活用すべきかが詳しく説明されています。なお、ベータ版におけるAttribution Reporting APIは、すでにAndroid 13端末の多くで利用可能となっており、今後は他のすべてのAPIの提供対象も順次拡大される予定です。これにより、アドテクプロバイダーがスケーラブルなテストを進めやすい環境が整備されていきます。
こうした初期段階での検証に取り組むDSPやMMP ─ たとえばRemergeやAppsFlyer ─ は、モバイル広告がクロスアプリ識別子に依存しない未来を構築するうえで、重要な役割を担っています。

モバイルマーケティングに広がる新たな可能性
Android向けプライバシーサンドボックスの目的は、ユーザーに対して「自分のデータが適切に保護されている」という安心感を提供することにあります。同時にGoogleは、モバイル広告領域において成功を収めるために必要なツールを、開発者や企業が活用できるよう提供することも目指しています。Googleは、ユーザートラッキング手法としてのフィンガープリントのようなアプローチを回避したいと考えており、だからこそ、企業がプライバシー重視の広告ソリューションの開発プロセスに関与することを歓迎しています。実際に行われている企業側のテストでは、従来のCookieベースの広告環境では顕在化しなかった課題や技術的ギャップも明らかになっています。AppsFlyerのロイ・ヤナイ氏と、RemergeのCEO パン・カツキス氏は、現在これらのギャップを評価・分析し、適切なソリューションによって埋める方法を模索していると語っています。これは、マーケティングが中長期的に発展していくために不可欠なステップです。ユーザーはここ数年、広告だけでなく、日常のデジタル体験全体において、より高いレベルのデータ保護を求めるようになっています。
ビジネスチャンスの再編成
データプライバシーへの移行は、広告およびパフォーマンスデータの分類方法に新たな可能性をもたらしています。このような「ビジネスチャンスの再編成(opportunity reshuffle)」について、AppsFlyerのロイ・ヤナイ氏は次のように語っています:
「AndroidチームおよびRemergeとの継続的なリサーチと協業を経て、Protected Audience APIがリマーケティング領域において多くの企業にもたらす可能性に大きな期待を寄せています。リマーケティングの枠を超えて、このAPIはアプリエコシステム全体にとって前進を意味するものであり、ユーザー体験を損なうことなくプライバシーを保護するためにテクノロジーがどう活用できるかを体現しています。」
この変化に備え、企業は体制の見直しを迫られます。たとえば、CRM機能ひとつを取っても、クッキーレスなソリューションに対応するには大幅な見直しが必要になります。広告効果計測のためのイベント定義、ターゲットオーディエンスの設定、ターゲティングパラメータの設計 ─ こうした要素すべてが再定義の対象となります。今のうちに適応を進めておく企業こそが、中長期的に競争優位を築くことができるでしょう。そのためにも、すべての業界関係者が、プロバイダーや広告会社、メディア、Google、その他業界のキープレイヤーと積極的に対話し、常に最新情報を把握しておくことが重要です。最終的に変わるのは広告そのものではなく、使われるテクノロジーと、マーケティングチャネルの活用方法なのです。
Remergeのパン・カツキス氏によれば、新しいアトリビューションレポーティングの形は、広告効果測定において大きな利点をもたらすといいます。なぜなら、アプリとWebの間に存在していたギャップを、ようやく埋めることができるようになったからです。これはまさに、モバイル時代におけるマーケティング業界が注目すべきチャンスであると言えるでしょう。
今後の展開にもぜひご注目ください。Googleをはじめ、RemergeやAppsFlyerといったプレイヤーたちは、2024年初頭にもさらなる最新情報を発信する予定です。
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