ナビゲーションにスキップ メインコンテンツにスキップ

「未来のデジタル広告はIDに基づくものではない」- Remerge CEO、Pan Katsukisのインタビューより


この記事の原文はドイツ語でNiklas Lewanczikによって作成されたものです。

App StoreのAppleでのトラッキングの許諾(オプトイン)が必須になり、Googleさえもがそれに従うことになった場合、デジタル広告、特にモバイルにおけるターゲティングはどうなるでしょうか。RemergeのCEOのPan Katsukis氏は、この問いに対して次のように述べています。


広告IDの無い世界は今のところ想像しにくいですが、Appleが2020年に「iOS 14ではアプリをトラッキングするためにオプトインを義務化する」と発表する前から、多くの企業がその準備を始めていました。IDFA(iOS端末の広告識別子)の使用条件の変更は、広告主、開発者、そしてFacebookなどの広告プラットフォームの間で、大騒ぎになりました。Facebookなどは、広告収入の損失とトラッキングオプションの大幅な削減を恐れてAppleを公に非難しました。

Appleがトラッキングのオプトインの義務化を2021年春に延期した後(iOS 14.5以降では必須)、App Storeのガイドラインに更新内容が書き込まれました。今回の変更で影響を受けることになる人々は、遅くともそろそろ、潜在的なアプリユーザーに通知する方法を準備し、トラッキングとターゲティングの代替手段を検討するようにしておく必要があります。何しろ、グーグルが近いうちにAndroidに同様の機能を搭載してくるかもしれないのですから。Googleは、Appleのニュースにすばやく対応し、2020年9月初旬のアップデートで自社の広告SDKを適応させた企業の1つです。また、アプリ開発者に対して、オプトインの義務化に伴う変更に対応するためのヒントを提供しました。

「2019年末には、私たちはすでにNo IDの未来に向けて戦略を整えていました」

アプリマーケティング業界の企業は、Appleの重大発表のずっと以前から、個人識別子を使用しない広告の未来がどのようになるかという課題に取り組んできました。これらの企業には、グローバルで展開しているアプリマーケティングプラットフォームのRemergeも含まれています。Remergeは、アプリのリターゲティングとユーザーのリエンゲージメント、インクリメンタリティ測定、アップリフト最適化のソリューションに特化しています。そのため私たちはCEO兼共同創設者であるPan Katsukis氏から、モバイルマーケティングの現状と、業界の将来に対するプロフェッショナルの期待について、より深いインサイトを得ることができした。インタビューで得られたインサイトを、共有したいと思います。

インタビュー

モバイルアプリトラッキングのオプトイン義務化

OnlineMarketing.de:AppleがApp Storeでアプリのトラッキングにユーザー許諾を義務化とすると発表したことは、アプリマーケティング業界全体に衝撃を与えました。Remergeでは、それは驚くべきものでしたか?

Pan Katsukis:過去数年にわたってAppleの開発に携わってきた人であれば、プライバシーの問題が企業戦略の焦点であったことを知っています。また、このことがマーケティング戦略や施策にも影響を与えるであろうことは、早い段階で明確でした。そこで私たちは、2019年末にNo IDの未来に向けて戦略を整え、チームはその戦略にコミットしました。2020年の初め、Appleが新しいプライバシーフレームワークを発表する前に、No IDの世界でも機能する新製品の開発を開始しました。昨年の夏に、Appleがプライバシー駆動型のアプリ環境を強化する具体的な計画を発表したときは、私たちは十分に準備ができており、迅速かつ効果的に新しい優先順位を設定することができました。

収益損失の見通し

その中で、平均的な中小企業が実際にどの程度の収益損失に直面する可能性があるのか、推定することは可能でしょうか?

今後、様々な要素が絡んでくるでしょう。広告主はどのように行動するのか?マーケティングプロバイダーは、彼らにNo IDで機能する優れた代替製品を迅速に提供することができるのか?売り上げへの影響を推測するには、過去にAppleがWeb領域でSafariのITP(クロスサイトトラッキングなし)を展開したときなど、同様の思い切った展開と比較することができるでしょう。この時は、広告収入は40%減少しました。しかし、Safariがウェブ上で果たした役割は比較的小さく、アプリ開発者用のiOSとは全く異なります。広告を通じてiOSユーザーにリーチする必要性は間違いなく高く、そのため代替ソリューションへの投資がより多く行われるでしょう。したがって、売上高の損失は一桁台半ばから後半(4~8%)にとどまるという試算ができるでしょう。最初の数週間は確かにショックが大きく、損失も大きくなるでしょうが、時間とともに不確定要素が解消されれば、回復するはずです。

マーケティング活動のパーソナライズ化

Facebookは、中小企業に発生するIDFA(iOS端末の広告識別子)の更新の危険性を指摘するために、特別にウェブサイトを作成しました。これらの企業は、現在自社のマーケティング手段がほとんどパーソナライズ化されていないことを、非常に不安に感じていると思いますか?

それはどうでしょう。FacebookがこのキャンペーンでAppleに対して代理戦争を仕掛けているように見えます。たとえば都市によるターゲティングは、引き続き可能です。変更されるのは、キャンペーンの成果の測定機能であり、その結果、Facebookはもはや過去のように、単にユーザーを自社サービスに帰属させることができなくなります。広告主は、アトリビューションとしてAppleの新しいSKAdNetworkを頼ることになるでしょう。目に見えるコンバージョン数は40%下がります。もし中小企業がパフォーマンスの低下を目の当たりにすれば、予算の使い方や管理に対してより慎重になるか、他のチャネルに予算をシフトするようになるでしょう。

モバイルアトリビューションへの影響

実際に影響を受けるのはどの分野ですか?ターゲティングとリターゲティングのみですか?それともアプリのアトリビューションモデルも影響を受けますか?

実際、アトリビューションはターゲティングよりも、さらに影響を受けると思います。Appleは、広告主がアトリビューションにSKAdNetworkを使用することを強制します。MMPや、Adjust、AppsFlyerといったアトリビューションプラットフォームも、SKAdNetworkを使用する必要があり、フィンガープリントや確率的アトリビューションモデルを使用することはできません。現在のモデルと比較すると、SKAdNetworkは比較的初歩的な設計であり、データは集約され、24時間から72時間後にのみ利用可能になります。これにより、タイムリーなキャンペーンの最適化が難しくなることは言うまでもありません。

広告の測定と最適化のための戦略策定

今、マーケターが備えるべきなのは、代替ソリューションでしょうか。それとも、できる限り準拠したアプリの最適化でしょうか。あるいはその両方を同時に行う必要がありますか?

マーケターが引き続きiOSユーザーにリーチしたいのであれば、広告を測定し、最適化するための優れた戦略が必要です。優れたマーケターは、適切な戦略を見つけるために、数週間にわたってNo IDインベントリのテストを実施しています。すでに述べたように、SkadNetworkは測定だけではうまく最適化できません。リアルタイムの結果を得て、キャンペーンの影響に関する科学的データベースを確保するために、インクリメンタリティ測定が追加されると確信しています。

多くのマーケターは不安を感じ、躊躇することが予想されます。そのため、No IDインベントリは非常に安価になる可能性があり、最初からそこに取り組むことは理にかなってます。また、The Trade Deskなどの大規模なプラットフォームは、No IDインベントリを取り扱わないと発表しています。つまり、広告枠の競争率は現在よりも減少するということです。

アプリトラッキングの代替手段

同様のユーザーデータセットを特定できるような、アプリトラッキングの直接的な代替手段はありますか?

フィンガープリントや別の確率的な手法が認められるかどうかについて議論がありましたが、Appleは先週更新されたFAQで、その場合アプリストアを追放するリスクにつながることを明らかにしました。Appleは明らかに、個々のユーザーを本人の同意なしにトラッキングしたりターゲティングしたりすることをやめたいと考えているのは明らかです。匿名化だけでは不十分です。そのため、代替手段の基本は、データの集約、つまりユーザーをグループや集団にまとめることでなければなりません。例えば、インクリメンタリティ測定では、ユーザーをテストグループとコントロールグループに分けて、2つのグループのパフォーマンスを比較しています。テストグループには広告が表示されますが、コントロールグループには表示されません。

« リアルタイムの結果を得て、キャンペーンの影響に関する科学的データベースを確保するために、インクリメンタリティ測定が追加されると確信しています。 »

Pan Katsukis

プライバシーを重視した環境での取得と保持

iOSでプライバシーを中心とした環境に移行する中で、アプリは取得やリテンションの面でどのように成長を続けていくことができるのでしょうか。

SKAdNetworkでは、キャンペーンを測定するための基準をApple自体が提供します。ただし、これでは時間遅延のある集計結果のみを提供することになり、リテンション値は反映されません。しかし、リアルタイムのデータやリテンション値を確認するためには、インクリメンタリティ測定などの追加測定方法が有効だと考えられます。更に先ほど述べた、短期的にインベントリが安くなるということもプラスに作用します。これにより、キャンペーンをより幅広く展開できる上に、良い結果を得ることができます。広告メディアとコンテキストに重点を置けるようになるでしょう。これを意識することが、広告の最適化に役立ちます。

集計データへの着目

ユーザーの獲得とリテンションはどのように変化しますか?データの不足は、ユーザーレベルのターゲティング、クリエイティブのパーソナライズ化、アトリビューションモデルに影響を与えますか?これについて、サンプルになるシナリオはありますか?

現在見られる多くのターゲティングは、将来的にも可能です。例えば、パーソナライズ化された広告のために、当社は引き続きダイナミックプロダクト広告を使用しています。しかし、これはユーザーが過去に閲覧した特定の記事ではなく、ユーザーの居住地や時間帯などの集計データがベースになっています。一例を挙げるとすると、デリバリーサービスの場合、ユーザーがいる都市のランチのクーポンを掲載した適切な広告を表示することができます。

プログラマティック広告によるアプリの持続的な成長

DSPに対する要求はどのように変化していますか?またプログラマティック広告によってアプリの成長を維持する上で、重要な要因は何ですか?

透明性、最適化、スケールという3つの主な要因があげられます。

今後、DSPは最適化の判断材料として、より多くの知見を生み出せるようにならなければなりません。SKAdNetworkのデータに依存するだけでは不十分です。最適化に関する意思決定をサポートするものとして、インクリメンタリティ測定が挙げられます。コンテクスチュアルデータと強力なクリエイティブも、最適化においてより大きな役割を果たすでしょう。スケールとは、DSP が 1 秒間にどれだけのクエリーを処理し、どれだけインテリジェントにインサイトを提供して、適切でパフォーマンスの高いレンジを提供できるかを意味します。したがって、サプライサイドでより多くのコンテクスチュアルデータポイントがあれば、最適化に役立てることができます。

« 今後、DSPは最適化の判断材料として、より多くの知見を生み出せるようにならなければなりません。 »

PAN KATSUKIS

インクリメンタリティと真のiROAS

このコンテキストで、インクリメンタリティとは正確には何を意味していますか? 増分テストとは何か、広告費の真のiROASをどのように示しますか?

インクリメンタリティテストでは、ユーザーをテストグループとコントロールグループに分けて、2つのグループのパフォーマンスを比較します。テストグループには、広告キャンペーンが表示されますが、コントロールグループには表示されません。この測定は、SKAdNetworkと比較して、リアルタイムのデータやリテンションデータなどの付加情報を得ることができるという利点があります。この測定法自体は、科学に由来しており、例えば、ワクチンの効果を調べるのに使われています。つまりインクリメンタリティテストとは、ルールベースのアトリビューションモデルであり、現実的な結果を提供するものなのです。

モバイルマーケティングにおけるゲートキーパー

Googleはカスタマイズの道を歩み、広告SDKを適応させました。そしてダイアログポップアップを使用するようアプリ開発者に助言しています。この調整は避けられないのでしょうか。またこのことは、Appleが(理論的にはGoogleも)モバイルマーケティングのゲートキーパー(情報整理者)としていかに強力であるかを、明確に示しているのではないでしょうか。

広告を掲載したり、サードパーティプロバイダーとデータを共有したりするすべてのアプリ開発者は、ダイアログポップアップを表示すべきであり、そうでなければApp Storeから追い出される危険性があります。一方では、Appleは独創的な新しいビジネスモデルで素晴らしい市場を作り出しました。しかし、この市場には多種多様な企業が存在するため、Appleは業界関係者を巻き込まずにこのような重大な変化を計画することはできません。Appleは明らかにここでその市場パワーを使い、ルールを決めています。市場の大きさを考えれば、これは許されることではなく、iOSアプリ開発者に代替手段はありません。

透明性に積極的に取り組む

ChromeによるCookieレストラッキングを含む、データ保護に準拠したソリューションへの一般的なトレンドがあります(GoogleはFederated Learning Cohorts [FLoC]などの代替ソリューションに関する最新情報を発表したばかりです)。したがって、アプリ開発者や マーケターは、要件に関係なく、トラッキングの透明性にもっと積極的にt取り組むべきでしょうか。それとも、いざという時に対応すればいいのでしょうか?

プライバシーの動向を見ると、デジタル広告は将来、Web上でやり取りされるIDに基づくものではなくなる、とはっきりと言うことができます。Appleはこの点を先取りしています。Chromeを除くすべてのブラウザメーカーはクロスサイトトラッキングをフィルタリングし、Chromeはユーザーデータを集約することを望んでいます。したがって将来的には、広告の根拠は集約されたデータであり、これにはユーザーの同意は必要ないため、広告の同意のためのポップアップは一切不要になるのです。このための技術は、業界がすでにAppleのiOSの変更に対するソリューションを必要としているため、開発中です。おそらく、これらがウェブテクノロジーの基礎となるのでしょう。マーケターとして、これらの開発をモニタリングし、データ保護に準拠したソリューションの最前線に立つことが重要です。それが未来につながるのです。

オプトイン/アウトの具体的な内容

ユーザーが、Appleが要求するアプリの計測について特定の詳細を読んでから、計測の許諾を選択するかどうかを決めると思いますか?


ポップアップ自体は比較的短期間で、オプトイン率を上げるために集中的にテストしています。しかし、中期的には、ユーザーがトラッキングの付加価値を理解せず、ネガティブに連想してしまうため、オプトイン率は低下していくと予想しています。また、すべてのアプリでポップアップを一元的に無効化することで、ポップアップが表示されなくなり、ユーザーとしてトラッキングされないようにすることができます。20%以上のオプトイン率を期待する人はほとんどいません。

ユーザー同意の提供

あなたは、App Storeでアプリのトラッキングに常に同意しますか?特定のハードルはありますか?

はい、特に小規模のアプリでは、無料で使っているアプリにどれだけ付加価値をつけられるか分かっているので、私個人としては同意します。私が同意しないと思うのは、FacebookやGoogleです。これらはすでに市場で支配的な立場にあり、これ以上利益を得るべきではないでしょう。Appleのプライバシーフレームワークの良いところは、GDPRと比較して、特にFacebookやGoogleはデータ主権が独立したプロバイダより格段に高いため、「捕らえられている」という点です。

iOS14の変更点に関する最新の知見を得る

ポストIDFA時代におけるモバイルマーケティング企業の将来設計を支援するため、ID or No IDダッシュボードを開設しました。このインタラクティブなサイトでは、Appleのプライバシーを重視したiOS 14.5によってさらに影響を受けるであろうプログラマティック広告業界の最新情報をデータにて毎日提供しています。ぜひブックマークに追加して、一日も見逃さないようにしてください。