ユーザー離脱の根本原因に向き合う:リターゲティングによる早期チャーン対策
9月 19, 2023

モバイルユーザーをアプリ内に留め、継続的にエンゲージメントを維持するための取り組みは、マーケターにとって常に重要な課題です。中でも最大の障壁となるのが、離脱ユーザー(churned user)の増加です。世界的なデータによると、インストール翌日に離脱するユーザーは全体の74%、30日後もアクティブなユーザーはわずか6%に過ぎません。
このようなリテンションの急落は、特にアプリ内課金を主な収益源とするアプリにとって深刻で、業績への直接的なダメージになり得ます。実際、モバイルアプリ収益の約48.2%がアプリ内課金に依存しています。
離脱率が高いユーザー獲得施策にマーケティング予算を投じることは、ビジネスにとって持続可能とは言えません。では、離脱を未然に防ぐために、マーケターは何ができるのでしょうか?
離脱はいつ、なぜ起きるのか?
アプリのグロースには、ユーザー獲得(UA)が不可欠です。しかし、インストール獲得はあくまで起点に過ぎず、その先にはユーザーの関心を惹き続け、最終的に有料ユーザーへと育てていくフェーズが待っています。離脱は、多くの場合、ユーザーのアプリ体験の初期段階で発生します。
したがって、離脱対策は広告配信を展開する前、つまり初期の戦略設計段階から考慮すべきです。多くのアプリはインストール直後(Day 1)に比較的高いリテンション率を示しますが、Day 2以降に急落する傾向があります。Adjustのデータによると、インストール7日後の平均離脱率は87%、30日後には94%に達しています。
こうした離脱は、ユーザーの行動に起因するものであり、どれほどアプリのUIや初回利用フローを最適化しても、完全に防ぐことはできません。毎日無数のアプリがApp StoreやGoogle Playに公開されている中、ユーザーの注意を維持するのは至難の業です。その中で有効な対策として注目されているのが、アプリ内リターゲティングです。
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最も深刻な離脱とは何か?
特に避けたいのが、「ユーザーが最初のアプリ内アクションを完了する前に離脱するケース」です。例えば、初回チュートリアルの完了、プロフィール入力、あるいは初回購入など、初期に想定されている行動を起こす前に離脱することは、ユーザー獲得コストに対して一切の成果が得られない状態を意味します。
この「初期離脱」が問題なのは、アプリとの接触が浅いため、リエンゲージメントの難易度が非常に高いという点にあります。オーガニック流入であれ、広告経由であれ、インストール直後のユーザーは一般的に高い関心と購入意図を持っており、貴重なターゲットです。そのユーザーがアクションを起こす前に離脱すれば、LTVの高いロイヤルカスタマーになった可能性を逃すことになります。こうしたユーザーに対しては、インストール直後から即座にリターゲティングを行うことで、セールスファネルの下層へと導ける可能性が大きく高まります。
実際、ある調査では、リターゲティングされていないユーザーと比較して、リターゲティングされたユーザーは、インストール30日後のエンゲージメント率が152%、インストール初日においては200%も高いことが示されています。
リターゲティングでユーザー離れを防ぐには
ユーザーの離脱を抑え、リテンションを高め、コンバージョンを促進するうえで最も効果的な方法のひとつは、ユーザーがアプリジャーニーをスタートした直後から関与することです。アンインストールや休眠状態に入る前に接点を持つことが重要であり、多くの成果を上げているマーケターは、これを実現するためにアプリ内リターゲティングを活用しています。リターゲティングは、デイリーアクティブユーザー(DAU)の増加を促し、ユーザーがアプリに継続的に戻ってくる習慣を築くための有効な手段です。
たとえばゲームアプリを例に挙げると、リターゲティング広告を使って、ユーザーに新しいステージの追加や最新機能の紹介、ゲームを有利に進められる特典の提供などを伝えることで、アプリへの再訪を促すことが可能です。すでにインストール済みでありながらプレイをしていないユーザーに対しては、たとえばログインボーナスや限定キャラクターの使用権などを訴求するクリエイティブを出すことで、アプリの初回起動を後押しできます。Snap Inc.のゲーム部門長 (Head of Gaming) であり、収録当時はPlaytikaのリターゲティング責任者 (Retargeting Lead) 出会ったナダヴ・シャリット (Nadav Shalit) 氏は、Apptivateポッドキャストのエピソード28でこう語っています:
「インストール後、数日間かけてユーザーとコミュニケーションを取ります。特定のアクティビティに対しては、インストール翌日に『この機能はチェックしましたか?』といった広告を表示することで、Day 1からユーザーとの関係構築を始めています。」(関連ブログ)
フードデリバリーアプリの場合であれば、インストール直後のユーザーに対して食事時間の前にリターゲティング広告を配信することが有効です。さらに、「◯時までの注文で割引」といった時間的な緊急性を加えることで、ユーザーが初回アクションを起こす可能性が高まります。また、Eコマースアプリであれば、特定商品に使える期間限定のクーポンコードなどを提示することで、初回購入への導線を強化できます。
アプリ内リターゲティング戦略を設計するためのポイント
ユーザー維持(リテンション)は、単発の施策ではなく、中長期的な計測・分析と最適化を繰り返すプロセスです。離脱の原因を把握し、それに応じたリターゲティング戦略を構築することが欠かせません。
以下に、リターゲティング施策の設計時に意識すべきポイントを挙げます:
- アプリ初回利用時やその直後の離脱ポイントを特定する:ユーザーが最初に離脱しやすいフローや画面を明確にし、最適化や介入のタイミングを見極めます。
- リテンション率、コホートレポート、アプリ内イベントなどの定量データを継続的にモニタリング:ユーザー行動の傾向を可視化し、広告施策やセグメント戦略に反映します。
- リターゲティングはDay 1、Day 3、Day 7を中心に設計:Day 30での接触では手遅れなケースが多く、初期段階でのタッチポイントが成果を左右します。
- 競合アプリのパフォーマンスや広告出稿傾向を調査・分析:似たユーザー属性を持つアプリとの比較により、最適な施策やクリエイティブのヒントが得られます。
- アプリ内アンケートやフィードバック機能を活用して、定性データを取得:ユーザー視点のインサイトをもとに、プロダクト体験や施策改善につなげましょう。